「4%は12%に勝てない」 --- 第10回コンピュータ将棋選手権準優勝記 ---

山下 宏
2000-04-09
1.会場にて
  2000年3月8,9,10日、東京ディズニーランドの隣にあるシェラトン・ホテルにて
第10回コンピュータ将棋選手権が行われた。私は大学1年生の時に第2回大会に初参
加し、以来連続9回目の参加となり今ではすっかり古株と化している。

参加者は年々増えつづけ今回は45チーム。今回から1次予選、2次予選、決勝と初の
3日制になり、1次予選から決勝まで残ると計23局を指すハードな大会となった。
私は前回2位だったので決勝シードで3日目だけ参加すれば良かったのだが、新たな
ライバルの誕生とその戦型調査も兼ねて、初日、2日目は参加者の悲哀を眺めながら
のんびり過ごした。

今回特徴があったチームとしてはPenitum3 700MHzのマシンを4台つないで動かして
いた東京農工大の「せくしーあいちゃん」。オーロラの国、フィンランドから参加
した「Shocky3」(今回、唯一1次予選から決勝まで残った殊勲賞でもある)。
囲碁で世界を制し、今度は将棋もと北朝鮮からやってきた「KCC」(ただし作者は
簡単には国から出れないようで日本人の代理参加)。MobileGear (486/16MHz)という
50倍ぐらい遅いマシンで参加した「将棋もば」。Intelからまだ公表されていない
Pentium3 866EB のES(エンジニアリングサンプル)を 933MHz(133*7.0)という参加者
最高速で動かしていた「永世名人」などがあった。

私はと言えば、決勝3日前にはホテルにタワー型パソコンを3台持ちこんで夜な夜な
調整していたので、ホテルの清掃係には相当迷惑な客であったかもしれない。

2.1次予選
1日目、1次予選を全勝で抜けてきたのは中谷裕一氏の「竜の卵」。名前はかわい らしいが、OSはLinux、CPUはクロックアップのPentium3-840MHz、と中身はつまって いる。当然?このソフトが1次、2次を抜けて決勝リーグに残るだろう、と期待して いたのが、意外や1次、2次と抜けてきたのはフィンランドのShockyただ一人であっ た。Shockyは前回も参加していたが今回は本人がはるばる来日しての参加である。 以前からShotestに勝ったぞ、YSS7.0にも勝ったぞ、とのメールを時々もらっていた ので恐らく1次は抜けてくるとは思っていた。作者のPauli Misikangas氏はヘルシン キ大学の研究員だそうである。どこかで聞いたことのある大学名だと思っていたが Linuxの作者Linus B.Torvaldsがこの大学在学中にLinuxを開発したのを後で思い出 した。 他に1次を抜けた中では東大近山研の激指(これもすごい名前。しかしインパクトで はセクシーあいちゃんに負けるか?)が、東大研究室、4人での開発、と2年前のIS 将棋を彷彿させる雰囲気で来年は怖い存在になるかもしれない。 他に注目していたのは囲碁関係で情報を知った鈴木将棋。CPUはPentiumIII/733MHz のDual という気合の入った参加で、ほぼ2倍の高速化に成功しているという。 しかし残念ながら1次落ちしてしまったが。 余談だが最近SETI@homeという宇宙からの異星人の電波を世界中のコンピュータで 解析しよう、というプロジェクトに参加している。現在180万台のコンピュータが この計画に参加しており、将棋でもこういった分散処理を実現できれば低価格で DeepBlueを超える計算力を簡単に手に入れることができるのでは、と考えている。 3.2次予選
さて2日目。IS将棋と柿木将棋が予選落ちしてくれないか、と期待して午前中は 眺めていたが波瀾は起きず、5連勝同士の柿木-IS戦の結果を見終わった後早々に 寝てしまった。 4.決勝の朝
起きて3日目、夜通しの調整を終え会場に向かうと永世名人、KCC、といった有力 どころが予選落ちしていた。永世は2度目の決勝次点であり運のなさを思わせる。 前回からYSSでもっとも変わった点は相手の思考中にも探索するようになったこと であろう。マルチスレッドは採用せずに、シングルスレッドで予測中は通信バッファ をのぞきに行く形式になっている。もっともこの機能は決勝に残っていた(恐らく) 全てのソフトは今回装備していたが。いい技術はあっという間に盗まれる。追いつ け追い越せである。 予測読みによる思考時間の短縮はどの程度であるか、は事前に調べてあった。 これは相手の思考時間と強さ、こちらの予測Hit率にも関係してくるのだが概算で ・YSS同士を対戦させた場合、予測ありで1手平均17.2秒、なしで24.8秒。 ・柿木将棋3と対戦させた場合は予測ありで、1手平均21.7秒、なしで26.3秒。 (予測ありの場合の柿木将棋3とYSSの総思考時間はほぼ同じ) 結果、1.2倍〜1.4倍ほど時間の節約になっている。 面白いのは絶対手の交換が続く場合に、一方だけ思考時間を消費してしまって、 一方はノータイムで連続して指せることである。 柿木氏によるとこれを「いい循環」「悪い循環」と呼ぶそうである。 絶対手の交換に入る直前にどちらが先に考えるかは大きい。 5.決勝 前半戦
さて、初戦はShocky3。 正直、運も手伝って決勝に残れたのだろう、と思っていたが決勝ではIS将棋を あわや、というところまで追いこみ結果的に2勝を上げるなど決してフロックでは なかったことを証明してみせた。 Shockyは決勝でだけReijer Grimbergen氏(氏のSPEARは2次予選で負けてしまった) のマシン(PentiumIII/700MHz)を借りて参加したが、この高速化も決勝での好成績 に繋がったと思う。が、これで恐らく一番悔しい思いをしたのはShotestのJeffでは ないか?。彼らは同室の部屋を取っておりホテルでの練習対局では6勝1敗と大きく 勝ち越していたのに本番では手痛い1敗をShockyに喫してしまったのだから。 将棋に戻る。序盤早々、YSSが桂得に成功して優勢に。 しかし金銀で自陣にからまれ薄くされてみると気持ち悪い。 後手:YSS 10 後手の持駒:飛 銀 桂二 歩  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香 ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・v香|一 | ・ ・ と ・ 金 ・ ・ ・ ・|二 | ・ ・ 銀 ・ ・ ・v桂v玉v歩|三 | ・ ・v香 ・v歩 ・v歩v歩 ・|四 |v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | ・ ・ 歩 銀 歩 歩 歩 ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 金 ・ ・ ・ ・ 歩|七 | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・v銀 ・ ・ ・ ・v馬|九 +---------------------------+ 先手:Shocky3 先手の持駒:角 金 歩三  手数=96 △6九銀打 まで 図はようやくYSSが一本△69銀と反撃した局面。▲68金寄でどう攻めていくのか、 と心配していたらやっぱりの▲68金寄に△58銀打と筋悪く絡む。 しかし以下▲57金寄△18飛▲42角に△59銀生!が好手でよく見るとほとんど1手1手の 必死である。詰が見える終盤になるとコンピュータは頼もしい。 2戦目は柿木将棋戦。 この将棋は後味が悪かった。今回、東大2と柿木将棋4を市販されているソフトでは 最大のライバルと見なして、双方1000局以上は対戦させていた。これは自作の対市 販ソフト対戦用の「木偶の坊」によるものである(私のホームページ http://plaza15.mbn.or.jp/~yss/index_j.html からダウンロード可能)。 柿木将棋に対しては角換わりに持ちこめば直前の勝率が8割(16勝4敗)となった。 そこで先手なら3手目角交換で、大会では後手だったが(実際は先手だったのだが) 4手目角交換から角換わりに持ちこんで勝った。これは確率統計の勝利とも言える、 が柿木氏は正々堂々と戦ってきただけにやや心残りがあるのは否定できない。 後手:YSS 10 後手の持駒:角  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v飛 ・ ・v金v玉 ・|二 |v歩 ・ ・ ・v歩v金v銀v歩 ・|三 | ・ ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ 金 飛 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手:柿木将棋 先手の持駒:角  手数=40 △1四歩 まで 個人的にはこの将棋は統計の中の1局、という気がするのであまり解説をする気が しない。が敢えてするなら図から、柿木将棋が▲45歩△同歩▲51角△82飛▲95角成、 と馬を作ったが以下△35歩から桂頭を逆襲できて良くなった。95に馬を作りにいった 構想が悪かった、とも思うがこの形で仕掛けていくのが少し無理攻めだったとも思う。 3戦目はKFEnd。 最近、大会での作戦の「決め打ち」が目立っている。特にこれにはまると怖いと 思う。KFEnd 対 柿木将棋戦のKFEndの藤井システムなどは見事に組み上げていて感心 しきりなのだが「これがほんとにコンピュータ将棋の実力なのか?」と少しながらに 思わざるをえない。双方、駒組みの細かい意味は理解していないがそれで組み上げて 勝負がついてしまうのは、定跡の選択で勝敗が決まる、といわれるコンピュータチェ スの世界に似てきている。 後手:YSS 10 後手の持駒:角 金 香 歩二  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・ ・ ・ 龍 銀 ・v金v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ 全 ・v銀v玉 ・|二 |v歩 ・ ・ ・ 桂v金 ・v歩 ・|三 | ・ ・ 歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・|四 | ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩|五 | 歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六 | ・ 歩vと ・ ・ 歩 ・ 歩 歩|七 | ・ ・v馬 ・ 歩 ・ ・ 銀 香|八 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ 金 桂 玉|九 +---------------------------+ 先手:KFEnd 先手の持駒:桂 香  手数=85 ▲5二成銀 まで KFEndの穴熊にYSSは左美濃。分れで駒得するが龍を作られ「相手の攻めは分かりや すくこちらは分かりにくい」展開に。穴熊への手がかりが見えないとコンピュータ は極端に弱くなる。と金を作ってはがしにいく手が相手の攻めでの地平線効果で消 されてしまうのだ。 今回穴熊対策として端歩を突き捨てて17歩と叩く手が成立するなら (25に桂がいるか、17に2枚以上自分の利きがある)歩損でも突き捨てたら有利、 という評価関数をいれたが結局練習でも本番でも一度も指してくれなかった。 まだまだ調整不足である。 さて、図からYSSは△13玉?。あちゃーという手である。 51、52にある敵の銀から逃げ出そうとして良し、という意味の手で評価関数のまず さが出た。しかし今眺めてみると意外と難しい局面である。のんびり▲73歩成くら いで飛車を追いやって▲62龍から▲42銀成を目指されると負けだったか。 が▲25桂の王手と攻めてもらって、かつこの桂を目標に△24、25、26歩、と穴熊へ の手がかりを作れたのが大きく逆転した。悪手が悪手を呼んだのかもしれない。 最後、勝ちの局面で△19飛▲同玉とただで捨てた手には驚いたが、次の△26香打の 詰めろに相手は▲18飛と今取った飛車を受けに使わざるをえず、解説の勝又5段から は「ひどい手を指すソフトですね。皆さんこんなソフトは買うのやめましょう」と 酷評され会場の笑いを誘っていた。 後日聞いた話だがKFEndの有岡氏はABC探索(α-β-Conspiracy)という探索法を採用 されており共謀深さという概念で反復深化する仕組みになっているそうである。 これには大いに感銘を受けて現在、特定の手順を組み合わせて直線的に深く探索 できる方法はないか、と模索している。 第4戦目。3連勝で迎えたIS将棋との今にして思えば大一番。 図1 手数=112 △4七馬 まで 後手:YSS 10 後手の持駒:銀 歩五  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香 ・ 龍 ・ ・ ・v金 ・v香|一 | ・ ・ ・ ・ 馬 ・v金v玉 ・|二 | ・ ・v桂v歩 ・ ・v桂 ・v歩|三 | ・ ・v銀 ・v歩 ・ 歩 ・ ・|四 |v歩v歩 ・ ・ ・v銀 ・ ・ ・|五 | ・ ・v歩 歩 ・ ・ ・v桂 歩|六 | 歩 歩 ・ 金 歩v馬 ・ ・ 香|七 | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・v銀|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九 +---------------------------+ 先手:IS将棋 先手の持駒:飛 歩  図1は相矢倉の4手角から攻め込まれて、自陣2枚飛車で受け、それを取り返された 局面。ここで▲33歩成なら入玉含みで指して面白いか、と思っていたのだがIS将棋 の指し手は▲31龍!。△同玉だと▲33歩成、または▲23歩ぐらいで必死がかかるの で△同金だが▲33歩成△同玉▲43飛△34玉▲44金△35玉▲33龍△46玉▲45金△同玉 ▲56銀、以下YSSの王様は敵陣の59の地点まで追われて詰まされた。 単なる即詰なら以前からこの程度は読めたのだが(それでもこの詰は難しい部類に 入るが)感心したのは、この23手詰を龍切りの時点でIS将棋が読みきっていた!事 だ。IS将棋は共謀数を使った詰将棋も採用しているようで今大会では20手を超える 長手数の詰をやたら見つけていた。次回は採用したい。 ・・・しかしこの将棋はやはり残念だった。 あの形は事前の東大将棋2との対戦テストで何度も目にして、勝率が悪かっただけに 対策を立てておくべきだった。矢倉は今回特に調整したのだが、やはりまだ根本的 に感覚が教え込まれていないと思った。手損の認識、理想形に組むための数値化、 そしてまだ理解していない最大のものは「攻め合い」の感覚である。矢倉では特に、 IS将棋戦は典型だったが、銀桂を捌ききれないまま負けてしまった。相手が一方的 に切りこんでくる順をもっと深く読む必要は確実にある。矢倉戦では特にそれが顕著 だと思う。 しかし同時に攻め駒の飛銀桂に「活」を入れる感覚、これだけ激しい局面になった ときには、駒が捌けるようにしていなければまずい、という感覚をいれたい。 振り飛車戦では、遊び駒や浮き駒ができるときは大捌きに行かない、という感覚を 教えたことで相手が高美濃に組み上げた瞬間(83銀と上がった瞬間)に仕掛ける! ということが可能になった。矢倉はそれが間に合わない感じがする。 6.決勝 後半戦
第5戦、川端将棋。 驚愕だったのが川端将棋に仕掛けを完璧に指されて負けたこと。 作戦の選択と仕掛けの時点での読みの深さが足りないことを痛感させられた。 相手がはっきり一枚上だった。 敗戦直後はあまりの完敗さと、優勝がほとんど消えたショックで棋譜の保存を忘れて しまったほどだった。幸い川端氏はちゃんと保存しておられたのでコピーを頂き、 棋譜がないという困った事態は避けられた。 後手:川端将棋 後手の持駒:角  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v飛v香|一 | ・v玉v銀 ・ ・ ・v金 ・ ・|二 | ・v歩v歩 ・ ・v歩v桂v歩 ・|三 |v歩 ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ ・|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 銀 桂 ・ 歩|七 | ・ 玉 金 金 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手:YSS 10 先手の持駒:角  手数=37 ▲3七桂 まで 週刊将棋でも解説されていたが、やはりこの局面が一番印象に残っている。 YSSの3手目角交換矢倉模様に対して中飛車片美濃、という面白い戦型に。 図はだいたい組みあがった局面で自分自身がこの戦型を指してもこんな感じかな、 と思っていただけにここから完璧に仕掛けられたのは驚いた。 △24歩!▲同歩△59角▲26角△24飛▲25歩△同桂▲同桂△26角成▲同飛△37角 ▲29飛△26歩、までで見事に8筋突破を確定された。 以下はこちらの攻め筋を丁寧に消されていいところなく敗れた。 局後、川端氏から「YSSは角交換をしてくるのでこの作戦は去年から既に用意して いました」と言われてさらにショックが倍増した。実は今回、川端将棋が2年前に 見せた石田流穴熊を採用しようと思っていたのだが穴熊にするとYSSがいまいち弱 いため見送っていた経緯もあり、氏の作戦選択の高度さには正直脱帽である。 第6戦の Jeff Rollason の Shotest には過去3連敗と相性の悪い相手である。 棋譜を見て思ったのが、横歩取り系の将棋はあちらが強い、じっくりした戦いにな らばよし、である。結果は矢倉にして1歩得から、有利を拡大する、というかなり 強い指しまわしで完勝した。こういう将棋は暗い、といわれるが小さな有利を積み 重ねる指しまわしはかなり難しく高段者の部類に入ると思う。が、柿木-Shotest戦 を見る限りShotestの駒組み感覚も油断ならないと感じた。この将棋は運がよかった。 後手:Shotest 後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二 | ・ ・v銀v歩v角 ・v桂v銀v歩|三 | ・ ・v歩 ・v歩v金 ・v歩 ・|四 |v歩v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩|五 | ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六 | 歩 歩 銀 金 ・v歩 銀 ・ ・|七 | ・ 玉 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手:YSS 9.87:先:t=19 先手の持駒:歩三  手数=64 △4七歩打 まで 敗着を指摘するなら図の△47歩、の垂らしであろう。 無論これが致命的悪手というつもりはないが、本譜は以下▲46歩から67の金で47の歩 を払い、かつまた67まで金が戻って純粋歩得に成功という展開になってしまった。 この手を指したからには、73の銀や81の桂を攻めに参加させて落ち着かれる前に戦線 を拡大すべきだった。 そして最終戦。相手には申し分ない金沢将棋。8年間大会に出場して優勝5回、 2位3回、銅メダル以下はもらったことがない、という驚異的勝率を誇る強敵である。 当時の状況は4勝2敗で金沢、川端、IS、YSSが並んでおり、 ・金沢将棋がこれに勝てば文句なく優勝。 ・負けて、川端将棋が勝つと川端将棋が優勝。 ・川端将棋も負けてIS将棋が勝てばIS優勝。 ・ISが負ければYSSが優勝。 と、今書いてみてもこんがらがった、しかし間違いなくYSSの優勝の目は薄い状況 だった。 ちなみに小谷先生が過去の対戦成績からはじき出した?優勝確率は 金沢 60% (50%) 川端 24% (25%) IS 12% (12%) YSS 4% (12%) だったらしい(カッコ内は単純な確率)。 さて将棋の話に戻る。序盤に謎のバグが出て前半戦で星を落とした金沢氏は、3手目 角交換から筋違い角、という力自慢のオヤジが指すような戦法を対IS将棋戦に続けて 選択してきた。これでIS将棋には勝ってはいるが、ぶっつけ本番のかなり投げやりな 戦型選択だった、と思うのは私だけだろうか? 図2 手数=41 ▲2三同飛成 まで 後手:YSS 10 後手の持駒:角二  9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・v銀v玉v金 ・ ・ ・ ・|二 |v歩v歩v歩v歩v歩v歩 ・ 龍v歩|三 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・ ・|五 | ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩v歩 ・ ・|六 | 歩 ・ 銀 ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩|七 | ・ ・ 金 ・ 金 銀 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ 玉 ・ ・ ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手:金沢将棋 先手の持駒:銀 歩三  図2は飛車先を突破されて困ったかに見える局面。ここからの数手の応酬はなかなか 強かった。△37歩成、とでも取り合えず指すかと思っていたら△34角。変な角を打つ。 しかし読みを入れてみると▲21龍には△12角打!と2枚角を並べて△78角成を狙う 好手があり、以下▲24龍△23角打▲56歩△25飛と龍を消すのに成功して優勢に。 しかしこの辺でIS将棋が勝った、との情報が。一瞬でこの将棋はYSSにとっては 消化試合となってしまった。そうこうするうちに川端将棋が頓死で負け。IS将棋の 棚瀬氏の「きたきたきた〜」の声が会場に響く。最後、YSSがガツンと銀をぶちこん で寄せに行くと「○×△!(忘れました)」。・・・この時はYSSの電源コンセント に思わず足を掛けそうにもなったが、コンピュータはそんな作者の気持ちなど露知 らず、的確に必死をかけて勝負を決めてしまった。 それはさておき、今大会で一番うれしかったことはやはり金沢氏に勝てたこと だろう。前回は一方的だったが、今回はねじり合いの面白い将棋でこれを勝て たのが何よりうれしい。 一番物足りなかった事は3日間も会場にいて7局しか対戦できなかったことか。 もっともこれは贅沢なワガママなのだろうが・・・。 7.結果
結果を記そう。 優勝はIS将棋で5勝2敗。YSSは5勝2敗と同星ながらSBの差で2位に終わった。 3位は4勝3敗で大躍進の川端将棋。そして8位はShockyで2勝5敗であった。 2敗での優勝は史上初であり、1位と8位との差が星3つ、という僅差も初である。 だが決勝に残ったソフトには均等に優勝のチャンスがあった、と言えばそれは違う。 負けた将棋には必ず敗因があり、それを怠ったのは他ならぬ作者である。勝利に対 する執念の差が今回の結果を作った、と思いたい。 結果的に2年連続の準優勝となったが、どこの世界でも歴史に名が残るのは1位のみ であり2位は消え去る定めにある。来年こそは再び歴史に名を刻めるようまた改良し ていきたいと思う。
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