2 INET GATE INT00100 97/05/05 11:42 題名:Kasparov vs DeepBlue 1-1 Date: Mon, 05 May 1997 11:41:00 +0900 From: 山下 宏一部にながした短めの観戦記ですTo: csa@etl.go.jp CSAの皆様: NewYork での Kasparov 対 DeepBlue の決戦の様子をお伝えします。 今回、私も物好きに NY まで観戦に来て、会場で松原さんと一緒に DeepBlue の応援?をしていました。 会場はマンハッタンの中央に位置する Equitable Centar で行われました。 実際に対戦が行われている会場は見ることが出来ません。が、観戦者は地下1階 にある映画館のような場所に300名程が集まり、GM の解説を聞くことができます。 スクリーンは3つあり、左から、会場の対戦風景(主にKasparov が悩んでいる所)。 真ん中がノートコンピュータの画面で、ここではパソコン用のチェスコンピュータ Friz が動いており、大盤解説の代わりに、ここで駒を動かして解説していました。 画面には Friz が現在どちらが有利か、を示す棒グラフも表示されており、形勢が 分からない私には非常に参考になります。一番右は現在のチェス盤がそのままリア ルタイムで映し出されています。その右端に、高さ 1m50cm ほどの青色で四角形の 張りぼて?があり、それが DeepBlue の模型だそうです。 初日の1回戦。白番の Kasprov から始まったこの対戦は、序盤から5手目から 定跡を外れたようでKasparov いきなりの長考。Kasprov は右側にメモと腕時計を 置き、1手指すたびに(おそらく棋譜を)メモ帳に書き込んでいきます。Deep Blue の操作を担当するのは Hsu さんでした。手入力の時間も含めて時間を計っていたの ですが、40手間近、Kasprov が残り3分程度なのに対して DeepBlue は40分以上時間 を残しています。 途中派手な駒の取り合いになる乱戦になって(素人目には)DeepBlue ペースかと 思われたのですが、最終手、g7 の手を Kasparov が指した瞬間、Kasprov は置いて いた金の腕時計を素早く腕に付けなおします。途端に、会場内は拍手大喝采!。 松原さん曰く、これは Kasprov のポーズの一つらしく、勝ちを確信したときに こうするのだそうです。その数秒後、Deep Blue が投了します。 会場内に Kasprov が Deep Blue のチームと共に入ってきたときには、全員総立ち で拍手を送り、しばらく鳴りやみませんでした。Kasprov は上機嫌で、あの手が悪か った、とか話していました。 2日目、これで DeepBlue が先手で負けた時は、今回も絶望的?になるので是非 とも勝って欲しいと思っていました。 2局目は古典的な定跡に DeepBlue が誘い、それに Kasparov もついていったため、 序盤から35手近くまで DeepBlue はノータイムで飛ばします。 それから駒の損得のなく、渋い戦いが続いていたのですが、Friz の評価はずっと DeepBlue が優勢で、解説の GM の意見もポジション(駒の位置関係)で DeepBlue が有利に立っている、とのことで、DeepBlue がそのまま押し切ってしまいました。 今回は負けた Kasparov は解説会場には姿を見せず、人間らしい?所を見せていま した。 対局の結果はテレビの CNN でも流れていました。これで 1-1 となり、振り出しに 戻りました。個人的は若干 DeepBlue が有利に立ったのではないか、と思います。 山下 宏 45 INET GATE INE00100 97/05/07 11:11 題名:Kasparov vs DeepBlue 1.5-1.5 Date: Wed, 07 May 1997 11:03:00 +0900 From: 山下 宏 To: csa@etl.go.jp CSAの皆様: 3戦目は Draw でした。昨年の対戦と1、2戦の結果は逆ですが、同じ様に進んでい ることになります。 3局目は Kasparov の先手で始まり、定跡はすぐに外れてお互い長考の応酬となり ました。途中、Kasparov がポーンを1つ犠牲にする指し方をして、どうなのかな、 と思っていましたが、十数手後には取り返して、お互い手が出せずに引き分けとなり ました。 Kasparov の方は勝っている?と思っていたのか、手詰まりを打開しようと最後まで しばらく考えていました。 持ち時間はお互いに40手迄は2時間づつで(将棋流でいうと80手まで)それから20 手までは1時間、それを過ぎると30分切れ負けとなります(1手に3分の計算)。 将棋の数え方だと120手を超えたら30分切れ負けです。ただし、残っている時間は加算 されたままです。 それとは別に驚いた話は、2戦目の Kasparov の負けが、実はドローにできた!? という話でした。最後に投了した局面からクイーンが飛び出して、うまくすれば王手 王手の千日手で引き分けに持ち込める、というものです。解説のGMの中にはやはり負 けだという人もいて真偽はよく解りませんが。チェスの弱い私としては、テレビ将棋 のように1手詰の直前まで指して欲しいと思いました。(強くなると棋譜が汚れる、 と敬遠してしまうのですが) 山下 宏 20 INET GATE INE00101 97/05/11 12:27 題名:Kasparov vs DeepBlue 2.5-2.5 Date: Sun, 11 May 1997 12:25:00 +0900 From: 山下 宏 To: csa@etl.go.jp CSAの皆様: 5戦目も Draw でした。序盤は第1戦と同じ出だしで、ひょっとして先手(白)の Kasparov が2匹目のどじょうを狙って同じ様に進めるのでは!?と期待していたの ですが、あっさり外れました。 序盤早々、DeepBlue がナイトとビショップを交換します。途中、DeepBlue が右端 の H 列のポーンを犠牲にしてナイトが飛び出す指し方を見せましたが、Kasparov は 誘いに乗らず、雰囲気は? Kasparov ペースで対局は進んでいきました。 終盤、Kasparov の方が1手早く、ポーンをクイーンにできる位置にあったので、 解説者も Kasparov の勝ちだ、というような事を言っていたのですが、DeepBlue の 読みは確かで、クイーンを作らせた瞬間に王手王手の千日手で引き分けに持っていく 順を読んでおり、3回連続のドローとなりました。 Kasparov は表情豊かで(正直で?)形勢が態度に表れ、見ていて好感が持てます。 DeepBlue の変な手に対しては目を丸くして見せる、などして観客に大いに受けてい ました。今日の試合も、(おそらく)クイーンを作っても引き分けになるのに気付い た瞬間、なるほど!という仕草をして見せて大受けでした。 解説会場は土日だけあって、ホールは500人以上の観客で一杯で、入り口には 「チケット求む」のプラカードをぶら下げたファンまでいました。 これで1勝1敗3引き分け、となり、ようやく去年の結果とは違うスコアになりま した。これで仮に明日 DeepBlue が負けても昨年よりは進歩していることになります。 (本当は勝って欲しいですが)。 山下 宏 13 INET GATE INT00100 97/05/12 07:27 題名:Kasparov vs DeepBlue 2.5-3.5 !!! Date: Mon, 12 May 1997 07:24:00 +0900 From: 山下 宏 Errors-To: matsubar@etl.go.jp To: csa@etl.go.jp CSAの皆様: 6戦目、DeepBlue が Kasparov を破りました。 序盤早々、DeepBlue がナイトを犠牲にしてポジションで有利に立つ指し方をし、 19手(将棋では37手目)で、Kasparov が投げてしまいました。ナイトを犠牲に する指し方は、定跡のようで DeepBlue はノータイムで指していました。 Kasparov 自身も愚局だった、というような事を述べており、プレッシャーに負 けて間違えた(勝手に転んだ)ような気もします。 敗戦後の記者会見では、呆然としていて、見ていて気の毒でした。その後は、 ガンガン負け惜しみ?を言っていましたが。 会場は人間の勝ちを期待する人々がほとんどで、あっけない幕切れに、拍手の数 も少な目でした。 コンピュータチェスの進歩にもこれで区切りがついたと言えるでしょう。 次は将棋の番です。 White DeepBlue, Black Kasparov 1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Nd7 5. Ng5 Ngf6 6. Bd3 e6 7. N1f3 h6 8. Nxe6 Qe7 9. O-O fxe6 10. Bg6+ Kd8 11. Bf4 b5 12. a4 Bb7 13. Re1 Nd5 14. Bg3 Kc8 15. axb5 cxb5 16. Qd3 Bc6 17. Bf5 exf5 18. Rxe7 Bxe7 19. c4 1-0 山下 宏 --------------------------------------------------------------------------
題名:Kasparov vs. DeepBlue 2.5-3.5 !!! 今日、チェスの試合の観戦から戻ってきました。 結果はご存じの通り、最終戦で Kasparov が破れ、シリコンで作られた単なる計算機 が人間の最高実力者を倒す、という結果となってしまいました。 もちろんコンピュータの勝ちを期待してはいたのですが、いざ、負けたとなると心 情的には複雑なものがあります。 これをもってして計算機が知性を持った、とするのは間違いで、ようやくここまで チェスに対する研究が追いついた、と考えるべきだと思います。 会場はマンハッタンの中央に位置する Equitable Center で行われました。 実際に対戦が行われている会場は見ることが出来ません。が、観戦者は地下1階に ある映画館のような場所に500名程が集まり、GM(Grand Master 将棋で言えばA級 8段)の解説を聞くことができます。 スクリーンは3つあり、左から、会場の対戦風景(主に Kasparov が悩んでいる 所)。真ん中がノートコンピュータの画面で、ここではパソコン用のチェスコンピ ュータ Fritz が動いており、大盤解説の代わりに、ここで駒を動かして解説して いました。画面には Fritz が現在どちらが有利か、を示す棒グラフも表示されてお り、形勢が分からない私には非常に参考になります。一番右は現在のチェス盤がそ のままリアルタイムで映し出されています。 その右端に、高さ 1m50cm ほどの青色で四角形の張りぼて?があり、それが Deep Blue の模型だそうです。実際はこの張りぼてが2台つないであり、516個の チェスチップを使って、毎秒2億手以上を探索し、10手先以上まで完全に読み切り、 部分的には30〜40手先まで!読むそうです。 持ち時間はお互いに40手迄は2時間づつで(将棋流でいうと80手まで)それから 20手までは1時間、それを過ぎると30分切れ負けとなります(1手に3分の計算)。 将棋の数え方だと120手を超えたら30分切れ負けです。ただし、残っている時間は加 算されたままです。 Kasparov は表情豊かで(正直で?)形勢が態度に表れ、見ていて好感が持てます。 DeepBlue の変な手に対しては目を丸くして見せる、などして観客に大いに受けてい ました。 2戦目は Deep Blue が勝ちました。しかし、インターネット上でチェスファンが 研究した結果、実は Kasparov が正しく指せばドローにできた!ことを証明してみせ、 話題になっていました。 最終戦、序盤早々、DeepBlue がナイトを犠牲にしてポジションで有利に立つ指し 方をし、19手(将棋では37手目)で、あっと言う間に Kasparov が投げてしまいまし た。ナイトを犠牲にする指し方は、定跡のようで DeepBlue はノータイムで指してい ました。Kasparov 自身も愚局だった、というような事を述べており、プレッシャー に負けて間違えた(勝手に転んだ)ような気もします。 会場は人間の勝ちを期待する人々がほとんどで、あっけない幕切れに、拍手の数も 少な目でした。 しかし、負けた後の Kasparov は少し残念。記者会見で話し出す前は、目がうつろ で呆然としており、見ていて気の毒でした(全てのチェスファンの期待と尊厳を背負 っていただけに)。話し出すと、「これは真剣な勝負ではなく見せ物だ」などと、 色々負け惜しみを言っていました。また、そうでも言わないと精神的に耐えられなか ったのでしょう。もう一度再戦をしたい、ということも述べていたので、来年か、そ れぐらいにまたやるかもしれません。 将棋はまだまだ、研究が遅れています。日本人の特徴?として、羽生の強さなどを 神格化したがる傾向があり(右脳どうこう)、真面目な解析がされていないのです。 将棋も結局のところ論理的なゲームであり、数学的にはチェスより難しいとしても 必ず解があります。いづれそれは見つかるだろうし、見つけなければいけないと思っ ています。 山下 宏